住宅情報誌・元編集長の本音トーク

第17回『遺産相続は?もしも自分がボケたなら、資産を託す為に必要な準備は?』

プリンシプル住まい総研 所長:上野 典行 氏

『遺産相続は?もしも自分がボケたなら、資産を託す為に必要な準備は?』

講師
プリンシプル住まい総研所長 : 上野 典行 氏

 住まいは、自分と家族が暮らす為の生活の場であるとともに、妻子に残す事が出来る大切な資産でもあります。
 例えば、賃貸併用でリフォームして暮らしているご子息にとっては、もしもの時の相続をどうするか?あるいは、持ち主である自分が認知症となった場合どうするか?は、とても難しい問題です。

 そこで今回は、遺産相続や家族信託について論じていきます。

上野 典行 氏

増える相続税の対象者と税率。

 不動産物件購入時には、不動産物件を実際に購入する費用以外に、10~20万円ぐらい税金が掛かります。固定資産税/登録免許税/不動産取得税/印紙税などです。税金を払わない訳にはいきませんので、この経費は必ず必要であると認識してください。

 また、不動産物件購入時には、登録手続きをする必要があり、その手続きをする司法書士の報酬も発生します。

住宅ローンなどに掛かる諸経費は3%が目安。

 国税庁によると相続税の対象者は、平成21年度では4.06%でしたが、平成24年度には4.18%に上がっています。これは平成22年度に小規模宅地の課税特例の見直しがあり、同居していないと特例が使えない等の条件が厳しくなったための影響です。

 さらに平成27年度には大きな相続税見直しが行なわれました。基礎控除額が引き下げられ、これまでは「5,000万円+1,000万円×法定相続人の数」が控除されていたのですが、今は、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となりました。

 また、最高課税税率も図のように改正されて、増税が行なわれている事が分かります。

各法定相続人の取得金額 改正前 税率 改正後 税率
〜1,000万円以下 10% 10%
1,000万円超〜3,000万円以下 15% 15%
3,000万円超〜5,000万円以下 20% 20%
5,000万円超〜1億円以下 30% 30%
1億円超〜2億円以下 40% 40%
2億円超〜3億円以下 45%
3億円超〜6億円以下 50% 50%
6億円超〜 55%

相続税の対象となる資産の約半数は、不動産。

 さて、この様に高額な取得金額となると50%以上もの高い税率となってしまいますが、相続税のうち、実はその大半が不動産です。国税庁「相続時精算課税制度・贈与加算及び債務等は含まず」によると、相続税の対象となる資産は、半数近くが不動産となっています。

平成26年の数値 不動産
(土地/家屋)
有価証券 現金・預貯金 その他
全 国 46.9% 15.3% 26.6% 11.2%
東京国税局管内
(東京・千葉・神奈川・山梨)
50.8% 14.3% 25.4% 9.5%

 つまり、今、持っている不動産の価値が、どのくらいになっているかという事を知っておく事はとても重要ですし、それを「誰に相続させるのか」という事は、税務上においても大きな問題です。この時、相続税の不動産に関する申告では「路線価」を使うのが一般的ですが、路線価が時価を大きく超える場合は、路線価でなくとも良いとされています。

 しかし、今は、不動産価格が全般的に上がっており、路線価も時価も上昇傾向が続くとすれば、相続税対象となる資産の税額も上がってくると考えた方が良いでしょう。

相続では「トラブル」が起こる事が多いもの。

 こうした相続では遺族の間でのトラブルも増えています。「司法統計」(最高裁判所)によると、家庭裁判所への相続関係の相談件数は、この10年の間に約1.9倍に増加しているのです。また、遺産分割事件の件数(家事調停・審判) も、この10年の間に約1.4倍と増加しています。長年、家を継ぐ者が遺産を継ぐといった伝統的な考え方に支配されて来ましたが、昨今では、兄弟姉妹での相続割合には法律上の差がない事や、「面倒をみていた」「家を継いだ」という概念での相続額の差がない事などの理解が浸透して来た事によるのかも知れません。

トラブルが起こるのは「お金持ち」よりも普通の人。

 「そんなテレビドラマの様な相続トラブルが起こるのは、お金持ちだけの話」と思われる方が多いと思います。しかし、実際には、トラブルの75%は5,000万円以下の相続案件なのです。皆さんがお持ちの資産をせっかく家族の残しても、それが元で家族が揉めると言うのはとても悲しい事です。

 また、各種の相続税控除の申告には期限があり、長く揉めていると遺族で合意が得られず、相続税控除申告の期限が切れてしまう事もあります。

生前に遺言書を書き、家族にも説明を。

 こうしたトラブルを避け、最も合理的、かつ節税効果も考えて相続するには、生前に遺言書を書き、家族にも説明をしておく事がベターです。「この家は○○に渡す・・・」、「こちらのアパートはこうする・・・」、「あちらの空き地はこうする・・・」、「相続税は、一番古い物件○○を売るか、物納にすると良いだろう・・・」としっかり書き残す事で、後々のトラブルも避けられるものです。

 昨今は、こうした相続対策や遺言書作成のセミナーも開かれています。ご自身の財産を未来に託すためにも必要な事でしょう。

誰もが「自分だけは認知症にならない」と考えている。

 さらに、考えておくべき事があります。誰もが「いつかは自分が死ぬ」という事はどこかで覚悟はしているものですが、「自分が認知症になる」とは、なかなか考えていません。

 現在、我が国では長寿になっている事もあり、高齢者は増加傾向にありますが、それに伴い認知症患者も増えています。平成25年度の厚生労働省の発表によると、認知症患者は440万人いるといわれ、その予備軍も含めると、65歳以上の人の4人にひとりが認知症、もしくはその予備軍という事になります。

 もしも、自分が認知症になってしまうと、自分の住む家をリフォームする契約を行なう事も、売却して施設に入るという契約をする事も出来なくなってしまいます。そればかりか、預金の引き出しも、贈与も、遺産分割協議への参加も出来なくなってしまいます。

 これまでは、こうしたケースでは、第三者による「成年後見制度」を利用してきました。しかし、この制度は第三者が資産を守る事を基本としている為、相続税対策を行なったり、老人ホームに入る為に資産を売却したりするといった事は出来ません。

 そこで、いまある資産を、例えば家族に「信託」するという「民事信託(家族の場合は、家族信託)」という方法が、信託法が平成19年に改定施行され可能となりました。「私の資産管理は、長男に任せるよ」という事が出来るようになったのです。例えば、家賃などが振り込まれるのはあくまでも親の口座で、親の資産のままなのですが、リフォーム契約や賃貸借契約、あるいは売買契約を息子が出来るという事です。

 このように、資産の継承は複雑性が増してきましたが、やりくりがとても大切になっています。税理士だけでなく、不動産は不動産会社に相談し、家族信託は行政書士に相談する等、専門家に相談しながら、財産の活用と相続を考えて行きましょう。

上野 典行(うえの のりゆき)氏

講師の経歴:上野 典行(うえの のりゆき)氏
プリンシプル住まい総研 所長

リクルートに入社後、採用の編集企画室、続いて新領域推進室にて新規事業に携わった後に住宅領域に異動。
「住宅情報タウンズ編集長」「住宅情報マンションズ編集長」「SUUMO編集長」を経て独立。
「プリンシプル住まい総研」設立。日本賃貸住宅管理協会 研修副委員長、全国賃貸住宅新聞等、連載中。

プリンシプル住まい総研

記事一覧住宅情報誌・元編集長の本音トーク